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先日実家へ帰ったときに、家の前のスーパーマーケットがつぶれていました。私が子どものころからよく利用していた店だけに少しさみしく思いました。

私の実家近くには、20棟もが立ち並ぶ県営団地があり幼なじみもたくさん住んでいました。しかし、幼馴染たちはその家を出ていき、親世代だけが取り残される形で住人の高齢化が進んでいます。その影響で食料品などの消費量が減り、スーパーマーケットも経営が立ち行かなくなったのでしょう。

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日本経済新聞の調べによると、平均築年数が40年以上集合住宅が10棟以上集まる地域の地価は、過去10年間で平均で9%下落し、集合住宅密集地全体よりも6ポイント下落の幅が大きかったそうです。このまま放置すれば街全体の活力を失う恐れがあり、住宅の新陳代謝を促す必要があると指摘しています。

しかし集合住宅の場合、建て替えを行うためには住人の4/5の賛成が必要であることがマンション法とも呼ばれる区分所有法によって定められており、そのハードルは決して低くありません。千葉大学の小林秀樹教授は「高齢化が進むと入院などで投票できない住民が増え、合意が難しくなる」としてこの要件を緩和することを提言しています。

民法上、共有財産の処分に関しては共有者全員の同意があることを求められますが、何十人何百人の共有者がいる集合住宅において全員の同意を得ることは現実的ではないため、区分共有法ではその要件を4/5以上の多数決で決められるように引き下げています。

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この区分所有法においては、集合住宅の建て替えが多数決で決められることについて、憲法29条が保障する財産権を侵害するものであるとして最高裁まで争われたことがあります(平成21年4月23日第一小法廷)。

判決では「一部の区分所有者の区分所有権の行使によって,大多数の区分所有者の区分所有権の合理的な行使が妨げられることになる」「建替えに参加しない区分所有者は,売渡請求権の行使を受けることにより(中略)その経済的損失については相応の手当がされているというべき」として、憲法には違反しないという判断を下しています。

なお4/5という割合には、反対者の権利を賛成者が買い取る経済的負担を減らす目的もあり、2002年の法改正時にも維持がされています。

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そういえば実家も、私が生まれる直前に父が新築で購入したもので築年数40年を超えています。街のにぎわいが失われることもさびしいですが、もし建て替えのために、意に反して年老いた両親が住居を追われなければならなくなるとしたら、それはそれで複雑な気持ちになります。

父の日の夜、そんなことを考えさせられました。

日本国憲法
第29条第一項 財産権は、これを侵してはならない。
   第二項 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
   第三項 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

日本経済新聞 6月17日(日)付 朝刊より
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO31791860U8A610C1MM8000/