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2年前の年末から読みだしていた大作をようやく読み終えました。我ながら読むスピードが遅くてあきれてしまいます。だんだんとこれまで続いてきた平和に揺らぎを感じる昨今、何かのヒントになるのではと手に取った本です。

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舞台は、1812年前後のロシア。「1812年」というと私はチャイコフスキーの名曲を思い出します。実は二十歳のとき、母が勝手に応募した「成人の日コンサート」に何故か当選し、世界のマエストロ小澤征爾の指揮で大砲を打ち鳴らすという大役を任されたという思いでがあり、私にとっては感慨深い曲です。

そんな思い入れはさておき、あの曲の「大砲」は1812年に攻め込んできたナポレオン軍を、ロシア軍が打ち払ったことを象徴するもので、この小説でそのときに起きていた歴史を知ることができました。

しかし、トルストイはこの戦争が、ナポレオン一人の意思で引き起こされたということも、またロシアの将軍が優秀であったために撃退できたということも言下に否定をしています。トルストイはこれを「精神的関係では、事件の原因は権力のように思われるが、肉体的関係では―権力に服従する人々の活動である」と。

すなわち、権力につき従いそれを実行する人たちがいて初めて歴史は作り上げられるのだと。

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私は、この本を読んでいたハッとさせられた事があります。
物語は、過酷な戦場の場面と、それをどこか遠くの事であるかのように感じさせられる貴族の生活の場面と、両者が交互に描かれながら進みます。

しかし、読み進めたときに面白くて興奮するのはやはり戦場の場面。ただ、これはもちろん自分と直接かかわりのないことだからと言えます。そういう意味ではここで描かれた貴族たちの立場と同じと言えるかもしれません。

言い換えると、他人の戦争が面白く感じられたときに、民衆たちに権力の命令が良く届くようになり、結果として自分の戦争を呼び込んでしまう。そう突き付けられたように感じこの本を読み終えました。

戦争と平和
トルストイ[作] 工藤精一郎[訳] 新潮文庫