恐竜が絶滅したのは約6500万年前。メキシコのユカタン半島に落下した直径10キロ程度の巨大隕石がその原因であるという説が有力です。隕石の落下というのは現在でも起こりうる事象であり、何年か前にロシアに強い閃光を放ち落下していく隕石の映像が流れたのは記憶に新しいところです。
場合によっては、人類を滅亡に追いやるほどの小惑星が地球に落下する可能性もないわけではなく、そうした事態がもし発生したときに、被害を最小限に抑えるための方策を専門家が話し合うシンポジウム「プラネタリー・ディフェンス・カンファレンス」が5月に東京で開かれるそうです。
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もし小惑星が、日本付近に落下することが予測されるならば、落下地点の住民を強制的に避難させるような措置も必要となるかもしれません。しかし、起こる確率がきわめて低い事柄に対して、あらかじめこのような措置をとるための法整備を行うことは現実的ではありません。
日本国憲法においては、災害などの緊急事態が起きたときに強制避難など政府が罰則付きの政令を制定するには、法律による委任が必要であるとしています。小惑星落下のような想定しえない緊急事態が発生したときには、憲法上の手続きを無視してでも政府が権力(国家緊急権)を発動しなければ住民の生命が守れないような場合が考えられ、そうしたことに備えるために緊急事態条項を盛り込む憲法改正を行おうという動きがにわかに起こってきています。
社会学者の橋爪大三郎・東京工業大学教授は自著「国家緊急権」の中で、国家緊急権の存在は認めつつもそれを憲法に盛り込むことは、必要でもなく十分でもないとしています。
すなわち予め想定することができないから条文にできないのであって、憲法を無視することを憲法に規定すること自体が矛盾しているという論理です。
そのうえで、条文に盛り込むことで政府が国家緊急権を行使したことによる免責事項となり、この権利を行使するという誘因を高め、独裁を許す結果になる恐れがあると指摘しています。これは、第二次世界大戦中のワイマール憲法下のナチスドイツや、大日本帝国憲法下の日本の例からも歴史が示すところとなっています。
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橋爪氏は同書の中で、緊急事態が発生した場合でも主権者の人民が望む場合に限り、憲法の条文と異なる新たな法が生まれることで国家緊急権が「法の支配」の下で実現可能であるという法理があると述べています。その国の人民と政府がそのことをよく理解しているかどうかが試されるのがこの国家緊急権であり、このことによって決して独裁政府の誕生をゆるしてはならないといえます。
日本経済新聞 4月9日(日)付 朝刊より
http://www.nikkei.com/article/DGKKZO15041350X00C17A4MY1000/