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昨年の大河ドラマ「真田丸」は大ヒットだったようですね。いつもはお堅い大河ドラマですが三谷幸喜氏の軽妙な脚本で肩が凝らずに歴史を知ることができたのではないかと思います。

私の場合、真田昌幸、信之、信繁(幸村)の父子の物語をはじめて知ったのはこの池波正太郎の小説「真田太平記」でした。1985年にNHKのドラマにもなり、真田丸では父・昌幸を演じていた草刈正雄さんが、真田太平記では幸村の役を演じていたことで、昨年もその場面がよく紹介されていました。この小説、新潮文庫版で12巻にも及ぶ大長編だったのですが、テンポの良い文章ですぐ次が読みたくなり、あっという間に全巻読み終えた覚えがあります。

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大河ドラマの真田丸と大きく違ったのは、幸村が大坂夏の陣でこの世を去った後の信之の生涯まで描かれていることと、移ろいゆく戦国の歴史の流れのほかに真田家を支える「草の者」と名付けられた忍びの者たちの動きが中心的に描かれていることです。

とくに「草の者」のなかで「お江(こう)」と呼ばれる女忍びの存在が大きく、全巻を通してその生涯が描かれています。「お江」は敵方の忍びの攻撃をかいくぐりながら、諜報活動で得た情報を真田家に提供したり、ときには直接家康の首を狙うなど大胆な行動をとり、真田家のために生涯を尽くします。何度も命を狙われるピンチに見舞われながらも機転を利かせた行動で最後まで生き延び、真田父子の生涯を見守ります。

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「お江」はおそらく架空の人物であると思われます。こうした人物を描いたのはひとつには真田父子のだれか一人だけにスポットをあてるのではなく、「お江」を通した客観的な目で真田家を描きたかったということがあるかと思います。

あともう一つは、群雄割拠する戦国時代から、豊臣の時代、徳川の時代とめまぐるしく世の中の秩序が変わる中、女性という一見弱い立場の人間ながらも、世の中の真理を見極め何がもっとも正しいかを考えて行動することで、強くたくましく生きることができる。そんな応援歌を現代人に投げかけているようでもあります。

ISの台頭や、EUの団結力のほころび、そしてアメリカでのトランプ大統領の誕生と今まさに世界の秩序が大きく揺らぎ始めている現代、名もなき人間が混沌とした世を生き抜くためのヒントを「お江」は与えてくれるかもしれません。

真田太平記 [作]池波正太郎
新潮文庫 第1巻~12巻